※注釈※
この記事は、クトゥルフ神話の世界観に基づいた完全な創作フィクションです。
現実の出来事や人物とは一切関係ありません。
メタバース区役所に“旧支配者”の影──異界と東京が交差する一週間
特別記者:朝凪 誠一郎(東京異界通信社)
4月26日──東京の空に異変が走った。まるで何かが「門の向こう側」から這い出てくるような黄砂の帳に包まれたその日から、東京都は不可視の歯車が噛み合い始める音を聞いた。
江戸川区「メタバース区役所」、異界と接続か?
江戸川区が発足した「メタバース区役所」プロジェクトは、行政手続きを仮想空間上で可能にするという革新的な取り組みとして注目を集めていた。だが、その空間設計に深く関与した東京情報デザイン専門職大学の研究室より、奇妙な報告が上がっている。
「メタ空間の一部に、我々が設計していない“構造”が現れた。暗黒の塔のような意匠、異常な幾何学。内部には言語と呼べぬパターンが刻まれており、データ解析を試みた者が数名、幻聴と睡眠障害を訴えています」──関係者A
更に、仮想役所内で行われた模擬申請中、ある区民のアバターが“姿を変えた”。巨大な眼球が無数に並んだ球体と化したその姿は、異界の知識を触れた者が変質していくという、クトゥルフ神話に記される「外なる神」への接触を想起させる。
江戸川区は現在、この空間の一部を「技術的非互換セクター」として封鎖しているが、情報流出を恐れ報道機関への正式な発表は行っていない。
異常高温と黄砂──「門」が開いた可能性
4月25日、東京では観測史上でも珍しい季節外れの暑さが襲来し、熱中症による搬送者が急増した。さらに26日には東京で6度目となる黄砂の観測。だが、この黄砂には通常の粒子とは異なる“成分”が含まれていたことが、極秘裏に行われた国立異常災害研究機関(仮称)から漏れている。
「黄砂の中に未知の微粒子が混在していた。それは地球上のどの鉱物とも一致せず、鏡面に置くと“像が消える”という性質を持っていた」──研究員X
この微粒子は“プレ・カオス素子”と名付けられ、古代言語ネクロノミコンに記される「門の鍵の塵」と一致する可能性があると一部のオカルト研究者は指摘する。
つまり、東京上空に降った黄砂は、単なる大陸由来の砂ではなく、“異界からの風”によってもたらされた可能性があるのだ。
円安の影で蠢く「旧きもの」
日本銀行が政策金利を据え置いた直後、円相場は34年ぶりの安値を記録。経済界では「金融の異常」として騒がれているが、金融市場で動いていたのは人間だけではなかった。
複数の証券会社社員が、深夜の東京証券取引所にて「背中から細い触手を垂らした影」を目撃している。
「それは人ではなかった。市場を読み、為替に影響を与えていた。まるで“意志を持つマネー”だった」──匿名のトレーダー
彼らが目にしたのは、クトゥルフ神話に記される知識の守護者「シュブ=ニグラス」の使徒であるという説もある。彼らは人間の文明と経済に寄生し、価値の概念そのものを崩壊へ導く存在とされている。
つまり現在の円安も、金融政策だけでは説明できない“異形の存在による介入”の結果かもしれない。
SusHi Tech Tokyo──空飛ぶ車に刻まれたルーン
未来技術の展示会「SusHi Tech Tokyo」は、最先端技術の集大成として多くの来場者で賑わっていた。中でも注目を集めたのが「空飛ぶ車」だったが、その機体の表面に、一般公開前には存在しなかった“文字”が発見された。
文字の形状は、楔形にも似て非なる配置で、数学的な秩序を拒絶していた。
このルーンを確認した言語学者・伊吹准教授は、以下のように証言する。
「これは文字ではなく、呪的な“招来式”に近い。機体に刻まれたそれは、上空を通過した際、無意識のうちに市民の夢へ干渉する可能性がある。つまり、都市そのものを一つの儀式と見立てた“術式”です」
事実、この日を境に都内の精神科には「空に蠢く眼を見た」「未来が笑っていた」など、異常な内容の夢を訴える患者が急増している。
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