※注釈※
この記事は、クトゥルフ神話の世界観に基づいた完全な創作フィクションです。
現実の出来事や人物とは一切関係ありません。
「囁く桜と黒き祭儀――福岡、開かれし門の都」
2025年4月、福岡の地において、春の訪れと共に“異界の風”が囁き始めた。舞鶴公園の桜が満開となったその夜、恒例の「福岡城さくらまつり」に訪れた者たちの間で、奇妙な噂が広まった。
「花の奥から、呼ばれた気がする」
「桜が、目を開けていた」
「夢の中で何度も『深きものども』に追われた」
桜の夜に囁かれる言葉は、やがてひとつの奇妙な共通点へと収束していく。彼らは口々に「ウゴル=ンアシュ」(Ughul-n’ash)と呼ばれる存在の名を語るようになった――クトゥルフ神話に登場する、花と夢を媒介に現世へ干渉する旧支配者である。
異変の始まり:舞鶴公園 桜の中心で
「福岡城さくらまつり」期間中、舞鶴公園の一角にて“黒い桜”と呼ばれる一本の木が突如出現した。警備員や市の職員によって調査されたが、どの樹木データにも該当せず、幹には古代シュメール語と見られる不可解な文字が浮かび上がっていた。
ある日没後、この桜の周囲に人々が自然と集まり始めた。誰に導かれたわけでもなく、まるで「夢の中の命令」に従うかのように。
目撃者によれば、彼らは無言で円を描き、桜の根本に手をかざしていたという。そして、その場にいたひとりの女性が突如として叫び声をあげ、崩れるように倒れた。
「彼女の手のひらには、目が浮かんでいたんです。見開かれたままの、真っ黒な目が」
(現場にいたボランティアスタッフの証言)
デスティネーションキャンペーンと〈来訪者〉の影
同時期に始まった「福岡・大分デスティネーションキャンペーン」は、想定を大きく超える盛況を見せていた。だが、その一方で、観光客の中には「異様な雰囲気を持つ集団」が紛れていたという。
黒いフードを被り、低い声で“ヤ・ズー、ヤ・ズー、ウゴル=ンアシュ”と呟きながら博多駅周辺を巡る一団。彼らが立ち寄った神社や寺院では、なぜか周辺の電子機器が一時的に機能停止し、神職が原因不明の高熱を出すなどの異常が報告された。
福岡市観光課は、「彼らは単なる熱狂的なファンかもしれないが、安全確保のため警備を強化する」と発表。しかし一部の民俗学者の間では、「古代フンド語の呪文詠唱の可能性がある」との分析もなされている。
クラフト餃子フェスと〈封印の味〉
中央区・舞鶴公園三ノ丸広場で開催された「クラフト餃子フェス」では、意外な“異変”が報告されている。
ある屋台で販売された「墨黒餃子(いぶくろぎょうざ)」が人気を博していたが、食した一部の来場者が「古代言語で夢を見る」「口の中で囁き声がする」と語った。
製造元に確認したところ、開発者が「夢の中でレシピを授かった」と語り、その夢の内容を絵に描くと、古代ルルイエの地図と酷似していたという。現在、この餃子は“販売休止”となっているが、SNS上では「ウゴル=ンアシュの血を練り込んだ」という都市伝説も流れている。
キャラバンカー、福岡市美術館前にて異常発生
2025年4月2日、福岡市美術館前に設置されたキャラバンカーでは、ライブ放送中にモニターが突如ブラックアウト。代わりに数秒間、以下の言葉が表示された。
『目覚めよ、門は開かれたり。福岡は鍵なり。ウゴル=ンアシュ、来たれり。』
この映像は現地スタッフによって即座に遮断されたが、その後3時間にわたり近隣一帯で小動物の失踪が相次いだ。さらに地下鉄赤坂駅の通気口からは、「鼓動のような音」が記録されたという。
「技術的トラブル」として説明しているが、映像を見た一部の専門家は、「これは信号であり、招きの符号である」と警鐘を鳴らしている。
竈門神社のライトアップ、光の狭間に“門”が現出
太宰府市の宝満宮 竈門神社では、桜のライトアップ期間中に「空間のゆらぎ」が記録された。参道の中央に、一瞬だけ「視界が歪む」現象が観測されたという。
現地の巫女は、「その瞬間、空気の匂いが変わり、祭壇の炎が青白くなった」と語る。さらに、神殿裏手にある封印石にヒビが入っていたことも確認され、「何かが内側から出ようとした痕跡ではないか」とされている。
神社側は「自然現象の一部」として片づけているが、民俗学の分野では、「ウゴル=ンアシュを迎える門の一部が開いた」との説が急浮上している。
門は開かれ、囁きは続く
福岡に現れた黒い桜、夢に降る呪文、目覚めた“門”――これらは偶然の一致だろうか。それとも、太古の旧支配者が現世へと滲み出す兆しなのだろうか。
2025年春、福岡は“観光地”という名の仮面の下に、“古の神々の祭壇”としての顔を覗かせた。
そして今夜も誰かが、夢の中で囁く。
「ウゴル=ンアシュは目覚めたり。お前もまた、門である。」
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